「じいじ、みてみてー!」
無邪気な声で駆け寄ってきた孫は、やんちゃの盛りだ。
今は年相応に、戦隊ヒーローに夢中らしい。
いつかレッドみたいになるんだ、とキラキラした目で話す孫に、じいじは昔戦隊ヒーローを創っていたんだよ、と話したらどんな顔をするだろうか。
創っていたと言っても、演者やスーツアクターと言った花形ではない。
脚本家や監督といった要でもない。
ADだった。しかも右も左も分からない新人の。
撮影スケジュールはかなりタイトで、しかもそれがデビューとなる演者が番組性質上多かったから、苦労は絶えなかったものだ。
けれど。
とても充実していた。
演者が少しずつ、俳優らしくなっていくのをどこか誇らしく思ったものだ。
懐かしい。
目を閉じて、その頃を思い出して。
ふと、つきん、と胸に痛みがあった。
『----さん、お疲れ様!!今日もよろしくお願いしますね!!』
まだ、声変わりをする前の子どもの声だ。
その子役は、いつか戦隊ヒーローになりたい、と事務所所属になった新人で、当時売り出し中の子だった。
その頃の戦隊ヒーローは、どこか陰のある設定が流行っていて、自分が関わった作品もそうだった。
中でも、トラウマになりかねないほどの体験を抱えていたのが主人公-----レッドだ。
レッドにその設定を足すと、母親層の支持を得やすかった。
そうすると、高価になりがちなグッズが売れるのだ。
愚かな打算かもしれないが、子どもの支持だけでは戦隊ヒーロー作品は維持できない。
親からの支持を一定数得ることは、スタッフの至上命題の一つだ。
その子役は、レッドがヒーローを目指すきっかけになった子ども時代を演じる子だ。
台本をボロボロになるまで読み、監督のリテイクの声に必死に食らいついて演じる、スタッフ側からすれば仕事が楽しくなる様な子だった。
また、数多いるスタッフの名前をすぐに覚え、挨拶を欠かさない、純粋な、優しい子だった。
当時の自分の様な新人ADにすら、彼の撮影日を楽しみに思わせる、不思議な魅力に溢れる子役。
-----赤井 朝日。
いつか、自分がディレクターになったら。
その時は真っ先に声をかけて、主役を演じて貰おう、と決めていた子役の名前だ。
忘れない。
忘れ、られない。
彼の訃報が届いたのは、その出会いからどれくらい経った頃だったろうか。
自殺、と聞いた。
その時の衝撃と、喪失感。
一定数ファンが出来ていたのか、少しの間ワイドショーを賑わせた彼の訃報は、じわじわとした痛みを残したまま、今でも自分の中にある。
「じいじ?」
可愛らしい声に、懐古は終わる。
目を開けると、孫が不思議そうに自分を見上げていた。
「あぁ、すまんな。……どうした?」
「へへ、みてみて、ばあばがかってくれたの!」
小さな手に握られていたのは、今放送されているニンニンジャンの戦闘スーツを着た人形だった。
レッド、と言うには少し色味の違う赤を纏ったそれは、最近登場したらしい。
「そうか、良かったなぁ」
「うん!あのね、あのね、ねおれっどっていうんだよ!つよくて、かっこいいの!」
「そうか、そうか」
笑いながら頭を撫でる。
よっぽど嬉しいのだろう、大事そうに両手で抱えて、顔が高揚している。
この顔を見たくて、目指していた昔の自分にはこれ以上ないご褒美だ。
願わくば、レッドに純粋に、強烈に憧れ目指していた彼にも見せたかった。
「-----あ、みてみて、ねおれっど!」
孫が指さしたのはポスターだ。
どうやら、映画公開が近いらしい。
(--------っ)
そこに写っていたのは、赤井朝日に似た、似すぎた子役だった。
そっと近ずいて、出演の名前を読む。
そこには-------
(いや、まさかな)
苦笑いをして、一つ頭をふる。
思い出だ。過去だ。
なのに。
あの子を思い出す時の、胸の痛みがあるのは何故だろう。
END
あとがき。
私はいつになったら明るい二次創作ができるのでしょうか。
気持ちはあるんですよ、いや、マジで。私も高校生わちゃわちゃキャッキャな5人書きたい。
今回のSSは、一人くらいこんな風に当時の、ロボットじゃない朝日を覚えてくれているスタッフさんがいて欲しいな、っていう思いが滾った結果です。
特撮って、スタッフさんのブログとかパンフレット読んでるとまず熱量と愛情の深さがすごいんですよね。
そして、名作は周年イベントとかがあったりもする。
作中に出てくる母親層うんぬん、は私の捏造です、悪しからず。