意識が浮上するのと同時に差し込んだ光に目を眇める。
「真昼!」
声がした方を、ゆっくりと見る。
-----あぁ。
また、やってしまったみたいだ。
「真昼、私が、分かる?」
震えてる。
声も、僕の手を握っている優しい手も。
(ごめんね)
そして。
(ありがとう)
「ゆうか…」
彼女が握ってくれている手に、力を込める。
「まひ、る…!」
安心した様に、嬉しそうに。
握り返された手。
温かい。
いつからか、あだ名で呼ぶことを止めた。
彼女にだけ。夕華に、だけ。
初めてギャル、ではなく、夕華、と呼びかけた時の彼女の表情は、名前の通りに華が咲いたような、綺麗な、可愛らしい笑顔だった。
そして。
同じ頃、彼女も。夕華も僕をあだ名ではなく真昼、と名前で呼ぶようになった。
あの時の嬉しさは、何ものにも替えられない。
「-----邪魔するぞ」
会話らしい会話もなく、まるで世界が僕と夕華だけになった様に見つめあっていたら、声がした。
聞きなれた声だ。
声のした方を2人で見る。
そこには、腕を組み、少し呆れた表情を浮かべたスネークがいた。
「っ、あ、あのね、スネーク!真昼が起きたの…!」
「見れば分かる。シェフが起きたら、すぐ俺様を呼べって言ったろうが、バカ」
耳まで真っ赤になった夕華が、スネークに言う。
夕華の目が、僕じゃなくスネークを見るのを寂しいな、と思いながら、ゆっくりと、言った。
「`ただいま´、スネーク」
「……あぁ」
「夕華は、悪くないから怒らないであげてね。僕が、手を握っていたから動けなかったんだよ」
「っ!!」
バッと、両手が離れていく。
もう少し、彼女の、夕華のぬくもりを感じて居たかった。
彼女の熱は、昔から、とてもとても心地いいから。
「-----診察するから、ギャルは外にいてやれ」
「嫌!」
でていけ、とは言わずいてやれ、と無意識の優しさを滲ませた主治医---スネークの言葉を、夕華の強い叫びが否定する。
診察の同席や病状説明は、基本的に縁者のみだ。どんなに近しい友人でも、そこには関われない。
「……あのなぁ」
「解ってる、ホントはダメなんだって。今日だけ。お願い、`先生´。今回は、居させて」
震える声で、必死に言い募る夕華に、ふう、とため息をついたスネークは、今回だけだぞ、と小さく言った。
ありがとう、と嬉しそうに笑った夕華は、スネークが診察しやすいように、と少し離れた場所にいく。
(……そっか)
どうやら、今回は本当に危うかった様だ。
子どもの頃から身体が弱くて入退院を繰り返していたから、解ってしまった。
「ん。急搬された時よりは遥かに良くなってるな。バイタル、安定してる。---------良かった…」
言葉に滲む優しさや安堵感が、今までの主治医とは遥かに違っていて。
スネークが、主治医として、だけではなく、友人として案じてくれていたのが分かった。
「危なかったの?」
わざと笑いながら言う。
その言葉に、眉をひそめたスネークが、低い声で言った。
「かなりな。俺様じゃなきゃ、危なかった。けどな、シェフ」
ギャルの前では、冗談でもそんなことは言うな。
スネークの言葉に、びくり、と肩を震わせた夕華の目には涙が浮かんでいる。
「ギャル。点滴が終わったら、俺様を呼べ」
震える夕華の肩に、ぽん、と手を置いたスネークが言ったのに、こくこくと首肯した夕華は、笑った。
「良かったよ、真昼。こわ、かった、んだからね?」
「うん。ごめんね、夕華」
ゆっくりと手を伸ばす。
握り返してくれた夕華に、笑いかけた。
「あの、ね、真昼。お願いがあるの」
「なぁに、夕華」
「私を、お嫁さんに、して?」
思わず、言葉を失った僕は、呆然と夕華を見る。
「ね、お願い、真昼---っ」
言い募る夕華に、待って、と小さな声で言うのが精一杯だった。
「どうして、僕なんかに…?」
声が弱くなってしまった。情けない。けれど、しょうがないじゃないか。
どうして太陽みたいに眩しい、優しい夕華が、僕なんかに【囚われて】くれると言うのか。
「っ、ごめんね、真昼。-----忘れ、て?」
拒絶された、と思わせてしまったのだろうか。
堪えきれなくなった涙が夕華の頬を伝っている。
それでも笑おうとしている夕華に、綺麗だ、と思う僕は、おかしいだろうか。
「違うよ、夕華。嫌だったんじゃないんだ」
離したくなくて、離れて欲しくなくて、握り合う手に力を込める。
「僕は、こんな身体なんだよ?いつ、夕華を残して逝くか分からない。子どもだって、きっと、無理な身体だよ?」
それでも。望んでくれる?
「----バカ!」
夕華が、叫ぶ。
「逝く、なんて言うんじゃないわよ、バカ真昼!アンタには、アンタにはねぇ!」
「一緒に、生きて欲しいの!」
あぁ。
その言葉。
なんて優しくて。
なんて、なんて。
(強いんだろう)
「………ねぇ、夕華」
「っ、な、なによ…?!」
「----結婚、しようか」
「っ、うん…!」
鐘の音が響く。
陽の光が注ぐ教会に、夕華の笑顔が咲く。
純白の生地に、金糸で刺繍された花弁が散りばめられたウエディングドレス。
満面の笑みでブーケトスをする夕華を見て、幸せを噛み締める。
子どもの頃と夕華に出会った時の、二度。諦めた夢のひとつだ。
まさか、叶うなんて。
「----次は、ハカセよ!」
スネークの隣にいたハカセは、恥ずかしそうに、けれど、嬉しそうにはにかんでいる。
きっと、ハカセのウエディングドレスも綺麗だろう。
けれど、その魔法は、彼じゃなきゃかけられない。
(そうでしょう?----`先生´…?)
END
あとがき。
夕華ちゃん、頑張りました。
真昼が搬送されたと一夜から連絡を貰って駆けつけてから数日。
真昼が、居なくなってしまうかもしれない。
1番に、知らされないかもしれない。
それに気づいて、それが嫌で。
その恐怖に、1人で耐えた夕華ちゃん。
ずっと、ずっと蓋をしていた気持ちを、夢をぶつける夕華ちゃん。
はー夕華ちゃん可愛い。
夕華が着ていたウエディングドレス。
金糸の花は、真昼の特注デザインです。
披露宴のパーティドレスは、水色(真昼の色)を着たい夕華と、オレンジ(夕華の色)を着せたい真昼でレッドやスネーク、ハカセを巻き込んで一悶着あった、とか。
あったら、いいなぁ(笑)
裏テーマは、【うっしーTPキャラを、幸せにしよう!】です(笑)