なついろ

ファイターズのこと、GLAYのこと 応援してると色々思うよね!!ってことで、吐き出し場所!!

いってらっしゃい。

 

今さらですが、昨シーズン中貴方をイメージして捏造したSSが出てきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頼むぞ、と言われた。

信じている、とも。

 


なのに。

 


「すみませんでした、監督」

 


遠征先のホテルの一室を訪ねて、開口1番口にした。

ぽかん、と呆気に取られたような顔をした監督は、ふう、と一つ息をついて少し話そうか、と言ってくれた。

 


「落ち着くよ、飲みなさい」

 


手ずから淹れてくれたお茶がほかほかと湯気を立てている。

それを見ながら、手を小さく握りこんだ。

悔しくて、申し訳なくて、顔を上げられないままだ。

 


「すみません…!」

 


繰り返す。

謝って許されることではない。

今年は、普段のシーズンとは何もかも違う。

チームも、世間も、自分も。

わがままを伝えて始まったシーズンだった。

自分を見出してくれた、ここまでのピッチャーにしてくれたこのチームのユニフォームを着れるのは、きっと、もう少ない。

だから、恩返しがしたかった。

チームに、ファンに。

胸を張って、いってきます、と言えるシーズンにしなければならなかった。

 


なのに。

 


「すみま…」

「謝るな。……悪いのは、お前を勝たせることの出来なかった俺だよ」

 


違う。

監督は悪くない。

コーチも監督も、自分を気遣ってくれたのだ。

不甲斐ない結果でベンチに戻る自分を、キャッチャーと一緒になって、最後まで。

 


「っ、」

「悔しいのも、チームを背負ってくれてるのも、分かってる。伝わってる。なのに、俺がこんなだから助けてやれない。ごめんな」

 


声が優しくて。

あまりに優しくて。

けれどその声は、疲れているように聞こえた。

自分のせいだ。

 


「勝負事だからね。負けることだってある。今は1人で耐えるんじゃなく、チームで耐えるときだよ。」

 


泣くものか、と思うのに。

泣いたらダメだと分かっているのに、一度流れてしまったらもう止められなかった。

しばらく、年甲斐もなくないている自分を、監督は静かに見守ってくれた。

 


「………他のピッチャーたちは、大丈夫かい」

 


言われたのだ。

自分にも、コーチにもきっと話さないことをお前に話をしてくるだろうから、その時は聞いてやってくれと。

お前にも、他のピッチャーにも無茶をさせることになるから、本音でやりとりして欲しい。と。

 


「………大丈夫、です」

「……………」

「監督が決めたなら、従うだけだってみんな言ってます」

「そう、か…… ありがとうな」

 


涙を拭いながら答える。

嘘ではない。

 


この監督は、チームを率いて長い。

若い選手が増えて来て、彼しか知らない選手がほとんどになった。

自分も、彼しか知らない。

だから、びっくりするようなことを言われても、監督が言うならやってみようか、と最終的に納得できるのだ。

 


「次は勝つからね」

「………つぎ」

「どうした、そんな顔をして」

「あるんですか、自分に」

 


託してくれた開幕戦からずっと、不甲斐ないままだ。

味方の攻撃のリズムを創れない自分に、まだ次をくれるのか。

 


「っ、当たり前だろう!」

 


ずっと優しかった声が、怒気を含む。

実際にそうされた訳では無いのに、パンっと頬を叩かれた感覚がした。

 


「言ったよね、任せたって。信じているって。それは、今も変わらないよ。お前は、それだけのことを今までだってしてくれたろう、甘く見るな!」

「かんとく……」

 


「俺はお前に感謝してるんだよ、出会った時からずっとだ!お前が居てくれたから勝てた試合も、見れた景色も、学べたこともたくさんあるんだ!」

「……かん、とく…っ、」

 


それは、自分の方なんだと。

自分は、監督に出会ったから、貴方だから経験できたことがたくさんあるんだと。

感謝しているのは、むしろ自分の方なんだと。

気持ちと言葉は溢れてくるのに、それは全て音になってくれなかった。

代わりに漏れるのは、嗚咽だ。

 


「覚えておけ、気持ちが折れていても俺はお前を使う、絶対に!そう簡単に楽になれると思うな!俺は、優しくないよ。楽になりたいなら、勝て!俺に、お前なら当然だと、まだまだ足りないと言わせろ!」

「ーーーっ」

「この程度で折れる様なお前じゃないだろう!甘えるな!……それとも、」

 


「―――それとも、そこを譲って悔しくないのか!」

 


首を横に振る。

嫌だ。

ライバルは、チームメイトにたくさんいる。

あのマウンドを、譲りたくない。譲ってやらない。

まだ。ーーあの場所で、投げたい。

 


「それなら、やることは1つだろう?いいかい。俺は、お前を次も使うよ。……分かったね?」

「ーーー、っ、」

「………まだ、日付は変わっていない。まだ、迷って、泣いていいよ。でもね」

 

 

 

「日付が変わったら許さない。一緒に、前を向くよ。―――いいね?」

「っ、ありがとう、ございます……!」

 


まるで父親の様に、愛情と厳しさを織り交ぜた表情で、泣いていいと、迷っていいと赦してくれた。

 

 

 

もう、それだけで十分だ。

 

 

 

この人の為に、投げようと思った。

チームの為に、投げなければならない。

自分のことなんて、どうでもいい。

 


とにかく。

 


「打てなくてごめんな」と謝ってくれたチームメイトのために。

「次は抑えるからな。だから、また頼むわ」と言ってくれたチームメイトのために。

「次組む時は、もっと頑張りますから」と言ってくれたチームメイトのために。

 


不甲斐ないカウントを作った自分を鼓舞してくれたスタンドのために。

 


投げよう。

とにかく。

 


なあ、だから。

 


(帰ってこいよ)

 


そして、こんなに情けない自分を、導いてくれ。

なにやってんすか、と笑って。

しょーがないですね、と笑って。

どうか。

 


(勝つなら、お前と勝ちたい)

 


だから。

 


(帰ってこいよ)

 


なぁ。

 

 

 

 


「―――よし。」

 


終わりだ。

迷うのは、もう、終わり。

 


お前が帰ってきた時に、少しはマシなピッチャーになっていたい。

だから、そのためにできることをひとつ、ひとつやっていこう。

 


嗚呼。

無性に。

 


あの生意気な笑顔が、声が。

 

 

 

(一緒に、勝とう)

 

 

 

聴きたい、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

エンドマークは打ちません。

貴方の野球人生は、まだまだこれから。

 

ねぇ ありー。

 

いってらっしゃい。

ありがとう。

元気でね。

いつか、いつかまた。

北海道に、帰ってきてくれたら。

 

嬉しいな。